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天使・・・もとい、ルルーシュが枢木に拉致・・・いや、保護されたことで、この場には私、ナナリー、そして暴走お飾り皇女が残された。 何なんだこの状況はと、文句の一つでも言いたいところだが、ひよっ子たちの言動で腹を立てたなどと思われたら魔女の名折れ。鉄面皮にも定評のあるC.C.は、にらみ合う・・・一人は目を閉ざしているが・・・姉妹を見つめた。 今この場では、私の天使・ルルーシュの所有権をめぐり女たちが火花を散らしているはずなのだが、何故か私は蚊帳の外。 二人の妹が愛する兄を愛でる権利は自分の物だと、無言のままに主張している。 気持ちはわかる。 ものすごく解るが、あれは私の物だ。 ナナリーには貸してやってもいいが、ユーフェミアは駄目だ。 連れ帰って、あいつの意思は完全無視したペット扱いしかねない危うさを感じるし、何よりあいつの嫌いな皇族だからな。 それにだ。 たった一人の家族、たった一人の兄、そして唯一の寄る辺を奪われないために姉と対立しているナナリーと、ぬるま湯の中で甘やかされて育てられたからだろうか、「今まで独占していたんだからいいじゃない」という空気を纏うユーフェミアのどちらに肩入れすべきかなど、考えるまでもない。 が。 此処で争って大事になればそれはそれで拙い。 ルルーシュとスザクはやり方は違えど目的は同じで、戦争の無い平和な世界を、差別のない優しい世界を作ること。 そしてそのために・・・信じられない事に、この猪突猛進独善独断暴走皇女を皇帝に据えるつもりなのだ。だからここで争って溝を深くするのではなく、懐柔しこちらに引き込む必要があるのだが・・・今からでも考え直せと二人を説得するべきだろうか? 国の繁栄と衰退など、永遠を生きる魔女にはどうでもいい事。 ブリタニアが滅んでも痛くも痒くもないが、このお飾りに振り回されて私の天使が苦しむ姿は見たくはない。恐らく泣いているだろう小さな姿を想像するだけで腹立たしい。 こんな事、今回が最初で最後にしなければ、枢木にいいとこ取りされてしまう。 何で私の天使は、あの男の前でしか泣かないんだ。 ああ腹立たしい。 ・・・と、たっぷり時間をかけて考えてから、C.C.は口を開いた。 「ユーフェミア・リ・ブリタニア。先ほどの話は、まだ覚えているか?」 突然横から名前を呼ばれ、ユーフェミアは顔を向けた。「あら、いたのですか?」という顔をしているから、本気でC.C.の存在を忘れていたらしい。 「話し、ですか?」 「シャルルが、ルルーシュとナナリーを捨てた話だよ」 これから戦争を仕掛ける国に、留学という名目で送り込み、戦禍に巻き込まれて死んだ事にするために置き去りにした。 ルルーシュの可愛さで忘れていた事を思い出し、ユーフェミアは顔色を無くした。 厳しく、子供の事に興味を示さない父親ではあるが、それは皇帝という地位にあるのだから仕方がないと思っていた。 表面的にはそう装っていても、子供を、家族を愛していると・・・信じていた。 親が子を愛するのは当たり前、兄弟姉妹が助け合い愛情を注ぐのも当たり前だと信じて生きてきたユーフェミアにとっては信じがたい言葉ではあったが、スザク、ナナリー、ルルーシュの反応で、父である皇帝が二人の命を奪うために日本に捨て、戦争を仕掛けたのが真実なのだと理解した。 もしかしたら、マリアンヌ后妃暗殺も関係しているのかもしれない。 そこまで悟れるのだが、ユーフェミアには思慮深差が決定的に欠けていた。 「私がお父様に確認をしてきます!」 そう言うが早いか駆けだそうとしたので、C.C.は表面上は冷静に、だが内心慌てて止めた。 「生きている事を教え、二人を死なせるつもりか?」 走り出した足がぴたりと止まった。 「言っただろう、二人は鬼籍に入る事で生きながらえていると。聞いていなかったのか?今になって、お前がその話題を掘り返し皇帝に問い詰めたらどうなると思う?二人が生きていたのではないかと勘繰られるとは思わないのか?」 「ですが!」 「ですがじゃありません!ユフィ姉さまは、私たちに死ねというのですか!?」 ユフィの否定に対し、声をあげたのはナナリーだった。 「私たちがここに隠れている意味をもっと考えてください。シュナイゼルお兄様に次ぐ才能だと言われたお兄様が息を殺し、此処に潜んでいる意味を考えてください。私たちの母が・・・庶民出の皇妃だった事を思い出してください!」 「で、ですから、お父様に真偽を確かめ、真実ならば考えを改めてもらうのです」 「お父様が私たち子供のいう事を聞くとでも?なぜ、私たちが日本に送られたかお忘れですか?お兄様が、入院していた私に一目会いに行って欲しいと、お父様に言った事が原因なのですよ」 ルルーシュは何も言わなかったが、日本に来るまでの間に、愚かな皇子だと嘲笑う人たちの言葉を耳にしていた。 だから、ナナリーは知っていたのだ。 あの日、ルルーシュが皇帝に何をいわれたのかも全て。 「そんなお父様に何を言うのですか?ユフィ姉さまも、私たちのような目にあうとは考えないのですか?皇位継承権剥奪だけでは済まないのですよ?政治に利用されるか、命を奪われるかなのです。もっとよく考えて下さい、周りの迷惑も考えてください。ユフィ姉さまの軽率な行動で、苦しむ者がいる事に気が付いてください」 最初はユーフェミアの軽率な行動に激昂していたナナリーだったが、徐々に冷静さを取り戻し、ゆっくりと、小さな子供に言い聞かせるように言った。 ないたことは ひみつだぞ!と、何度も何度も言うルルーシュにわかってるよと答えながらスザクはナナリー達の元へ向かった。口に出さなくても、目元も鼻も赤くなっているからバレバレなんだけどね。とは言わないでおいた。普段泣かないルルーシュは、現在も絶賛混乱中な事もあってその辺気づいていないから、この状態のままユフィに会わせるべきだと考えたのだ。 ルルーシュが泣くほどの事をしたのだと、教えるために。 ユフィは心優しく穏やかで理想的な主君といえるのだが、思い立ったら即行動、物事に集中すると周りの目を気にしない、自分の考えは曲げないと言う欠点があった。 ・・・優しい姫を暴君に変えてしまうほどの、致命的な欠点が。 スザクも考えるより動くタイプだが、一応それなりに周りの事は考える。 幼い頃は考え無しだったが、戦後は考えざるおえない状況で生きてきた。 だが、ユフィは今も周りを気にしなくていい環境にいるめ、自分の言動で周りがどうなるか知らずにいることが問題なのだとルルーシュは言った。問題が起きても、全て周りが片付け、その問題部分をユフィに見せない。ユフィの優しさが、結果的に誰かを傷つけ苦しめたとしても、ユーフェミアには知らされる事はなかった。でも、もうそんなぬるま湯の中からは出てもらわなければならない。 シャルル皇帝を討ち、ユーフェミアを新たな皇帝に据えるために。 それを実現させるためには、ユーフェミアの教育が必要だった。知識と思慮深さを手に入れる事が出来れば、皆が望んでいる戦争の無い優しい世界を実現できる可能性を秘めている。 ・・・だが、本当に大丈夫なんだろうか。 それが理想的な結果だと頭では解っているが、ユフィを皇帝にというのはあまりにも無謀なんじゃないか?と、スザクは胃が痛む思いがした。 属国の人間である僕に対しても分け隔てなく接し、僕の能力を認めて専任騎士にと望んでくれた。それは俺の性格も、汚さも何も知らないからだけど、それでも、差別をせずに見てくれた。 自分の身を顧みず、争いを止めようとする彼女は、とても優しく、そして強い女性だ。彼女の欠点を知らずにいたなら、心から敬愛し、盲目的に従っていたかもしれない。彼女のために、この身をささげる事を誇りに思っていたかもしれない。 そんな人物に意見し、教育し、皇帝に・・・ 胃がきりきりと痛み、思わず顔を顰めると、不安げな声が聞こえてきた。 「すざく、どうした?ぐあいがわるいのか?」 心底心配そうなルルーシュに、スザクは慌てて笑みを返した。 「ううん、大丈夫だよ」 今の状況で一番不安を抱えているのはこの幼いルルーシュだ。 幼い体と精神でテロリストをまとめ、ブリタニアに挑まなければならない。 いや、今は副総督ユーフェミアと話し合いをしなければならないのだ。 彼女を、ゼロの共犯者とするために。 そんな彼の前で弱さを見せてはいけない。 彼の事だ、この悩みも全て自分で抱えようとしてしまうだろう。 それは、だめだ。 想像もできないほどのプレッシャーを背負った小さな体を抱え直してから、スザクはナナリー達の待つ部屋へと入り・・・ そこに立つあり得ない人物の姿に、スザクとルルーシュは硬直した。 |